目次
はじめに
この章では、鉄と免疫の関係についてやさしく導入します。読者が抱きやすい疑問に答える形で、これからの章で何を学べるか示します。
なぜ鉄と免疫を学ぶのか
「鉄って貧血だけの話では?」と感じるかもしれません。しかし、鉄は体の防御(免疫)にも深く関わります。例えば、鉄が不足すると疲れやすくなるだけでなく、感染症にかかりやすくなることがあります。逆に鉄が多すぎても問題になる場合があります。
本文書の目的
この文書は、鉄が免疫に果たす役割、鉄不足と過剰が免疫へ与える影響、そして鉄代謝の基本的な仕組みを分かりやすく説明します。医療や栄養の観点から実生活で役立つ知識もお伝えします。
読み進め方の提案
まずは全体像をつかみ、その後で気になる章を詳しく読むとよいでしょう。専門用語は最小限にし、具体的な例で補足しますので安心してお読みください。
この記事でわかること
- 鉄と免疫の基本的な関係
- 鉄を調節する仕組み(ヘプシジンなど)
- 鉄不足による免疫低下と感染リスク
- 鉄過剰による炎症や感染リスク
- 食事・検査・サプリでの実践ポイント
鉄と免疫の関係の概要

鉄は酸素運搬やエネルギー生産に加え、免疫機能の維持や細胞増殖に欠かせない働きをします。ここでは、日常の理解に役立つポイントを分かりやすく解説します。
鉄の主な役割
鉄はヘモグロビンの一部として酸素を運びます。また、細胞内の酵素を助けてエネルギーを作り、細胞分裂や修復にも関与します。免疫細胞もこれらの働きを頼りにして活動します。
免疫との関連(ざっくり)
白血球やリンパ球は増殖や攻撃に鉄を必要とします。例えば、好中球が細菌を攻撃するときに働く酵素は鉄に依存しています。一方で、体は感染時に血中の鉄を減らして病原体の増殖を抑える仕組みを持ちます。
調節のしくみ
肝臓で作られるヘプシジンというホルモンが鉄の供給をコントロールします。炎症があるとヘプシジンが増え、鉄が使えにくくなります。この反応は病原体対策ですが、長引くと免疫細胞の働きを妨げることがあります。
日常での注意点
鉄が不足すると感染に弱くなり、過剰だと炎症や感染のリスクが高まることがあります。バランスが大切ですので、気になる場合は血液検査で確認し、医師と相談してください。
鉄分の主な役割と免疫との関連

鉄の主な役割
鉄はヘモグロビンの一部として酸素を全身に運びます。筋肉や臓器に酸素を届けることで、エネルギーを生み出す働きを支えます。例えば、鉄が不足すると疲れやすくなり、動く力が落ちやすくなります。
免疫との関係
免疫細胞は活動するために多くのエネルギーを必要とします。白血球やリンパ球は増殖して感染に対抗しますが、その過程で鉄を使います。鉄が不足すると、これらの細胞がうまく働かず、細菌やウイルスへの対応が弱くなることがあります。逆に鉄が過剰だと、病原体にとって利用しやすくなる面もあり、バランスが大切です。
バリア機能と組織修復
皮膚や粘膜の細胞も鉄を必要とします。鉄は細胞の分裂や修復に関わるため、傷の治りやすさや粘膜の健康に影響します。たとえば、口内炎や皮膚の乾燥が続く場合、鉄の状態を確認する価値があります。
日常でのわかりやすい例
風邪をひきやすい、疲れが取れない、傷の治りが遅いといった症状は鉄の不足が関係していることがあります。食事や検査で確認し、必要なら医師と相談して対処することが望ましいです。
注意点
鉄は重要ですが、多すぎても少なすぎても問題になります。自己判断で大量にサプリを摂る前に、医師や栄養士と相談してください。
鉄と免疫機能の分子メカニズム

細胞内の鉄調節(IRPとIRE)
細胞内の鉄は、鉄調節たんぱく質(IRP)と鉄反応エレメント(IRE)の相互作用で細かく制御されます。鉄が不足するとIRPが活性化して、貯蔵たんぱく質フェリチンの合成を抑え、輸送たんぱく質(トランスフェリン受容体)の安定性を高めます。結果として鉄の貯蔵を減らし、取り込みを増やします。逆に鉄が豊富だと、フェリチンが増えて取り込みが減ります。身近な例では、鉄不足のときに体が鉄を節約して取り込みを増やす仕組みです。
ヘプシジンと全身の鉄分配
ヘプシジンは肝臓で作られるホルモンで、腸や貧食性(鉄を回収する)マクロファージの出口であるフェロポルチンを分解します。感染や炎症でヘプシジンが上がると血中の鉄が減り、病原体の増殖を抑えます。短期的には有用ですが、慢性的に高いと鉄利用が障害され、貧血や免疫機能の低下を招きます。
免疫細胞と鉄の利用
免疫細胞は増殖や活性化に鉄を必要とします。リンパ球はDNA合成に鉄依存の酵素を使うため、鉄が不足すると増殖が抑えられます。マクロファージは古い赤血球から鉄を回収し、内部の鉄量がその機能(炎症促進か抑制か)を左右します。一般に鉄が多いマクロファージは炎症を抑える傾向があり、少ないと攻撃的になります。
鉄と酸化ストレス
過剰な鉄は活性酸素を増やし、細胞を傷つけます(フェントン反応)。そのため鉄は適切に貯蔵(フェリチン)や輸送される必要があります。鉄のバランスが崩れると、免疫細胞がうまく働かなくなることがあります。
鉄欠乏と免疫

鉄欠乏が免疫に与える影響
鉄が不足すると、免疫細胞が十分に働けなくなります。白血球(好中球・マクロファージ・リンパ球)は増殖やエネルギー産生に鉄を使います。鉄欠乏では細胞の増殖が遅れ、サイトカインや抗体の産生が低下し、感染に対する初期防御が弱くなります。たとえば風邪や呼吸器感染症にかかりやすく、治りにくくなることがあります。
自己免疫や慢性疾患との関連
鉄欠乏は甲状腺自己免疫疾患のリスク上昇と関連する報告があります。また慢性炎症が続くと「炎症性貧血(貯蔵鉄はあるが利用できない状態)」が起こり、免疫と鉄のバランスがさらに乱れます。がんや慢性腎障害では鉄の利用障害や吸収障害が起きやすく、免疫機能の低下を招きます。
よく見られる原因
- 慢性感染や炎症による鉄の隔離(体が鉄を使わせない)
- 消化管の吸収不良や手術、出血による喪失
- がんや慢性腎障害などでの利用障害
臨床的な示唆と対応
鉄欠乏が疑われる時は血液検査で判定します。原因を調べてから治療方針を立てることが大切です。単に鉄を補うだけでなく、炎症や基礎疾患の治療が必要な場合があります。感染が既にあるときの鉄投与は注意が必要です。症状としては疲労感、息切れ、感染しやすさの増加、創傷治癒の遅れなどが挙げられます。医師と相談して適切に対処してください。
鉄過剰と免疫

鉄過剰が免疫に与える影響
体内に鉄が過剰にあると、免疫のバランスが乱れやすくなります。鉄は細菌や一部のウイルスにとって栄養源になるため、過剰な鉄は感染を助ける環境を作ります。同時に鉄の化学的性質から酸化ストレスが高まり、組織や免疫細胞にダメージを与えることがあります。
病原体との関係
多くの病原体は生育に鉄を必要とします。体はこれを防ぐために、鉄を隠す仕組み(たとえば血中の鉄を減らすホルモンやたんぱく質)を働かせます。鉄が多いとその隠す仕組みが追いつかず、細菌が増殖しやすくなります。
免疫細胞への直接的な影響
過剰な鉄は、マクロファージや好中球といった白血球の働きを弱めます。これらの細胞は侵入した微生物を取り込んで破壊しますが、鉄が多いとその効率が落ちます。さらに酸化ストレスにより細胞が傷つき、免疫応答が乱れることがあります。
臨床での注意点
鉄サプリメントをむやみに大量に摂ることは避けるべきです。特に遺伝性の鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)や頻繁な輸血がある場合は、感染リスクや臓器障害が増すため医師の管理が必要です。検査で鉄の指標を確認し、必要最小限の補給を行うことが安全です。
日常でできること
鉄を摂るときは検査結果をもとにし、過剰を避ける習慣を持ちましょう。疑わしい症状や家族に鉄過剰の病気がある場合は早めに医療機関を受診してください。
まとめ

鉄は免疫システムを支える大切なミネラルです。免疫細胞の働きや増殖を助け、粘膜や皮膚のバリア機能を維持します。日常的に十分な鉄があることで、感染に対する備えが整いやすくなります。
一方で、鉄が不足すると免疫反応が弱まり、感染にかかりやすくなります。代表例は鉄欠乏性貧血で、疲れやすさに加えて治りが遅くなったり、風邪をひきやすくなったりします。逆に鉄が過剰だと、細菌が増えやすくなったり、体内で酸化ストレスが高まったりして免疫や組織に負担がかかります。
慢性の炎症や病気がある場合は、体の鉄の扱いが変わり免疫にも影響します。そのため、鉄はただ多ければよいというものではなく、バランスが最も重要です。
日常の対策としては、栄養バランスの良い食事を心がけ、ビタミンCを一緒に摂ると鉄の吸収が助かります。サプリメントは医師の判断で使うこと、疑わしい症状がある場合は検診や血液検査で確認することをおすすめします。これらを意識すれば、免疫と鉄のバランスを保ちやすくなります。