高血圧予防と血圧管理

更年期の高血圧対策に役立つ漢方と生活改善法

はじめに

この文書は、更年期における高血圧のしくみと、漢方医学に基づく対策をやさしく整理した案内です。

目的

更年期の女性ホルモンの変化は、血管の働きや水分・塩分の調節に影響を与え、血圧が上がりやすくなります。本書ではその背景を分かりやすく説明し、漢方の考え方と実際の対処法を紹介します。

対象

更年期に入った方、そのご家族や介護者、医療に関心のある方に向けています。専門的な知識がなくても読めるように工夫しました。

本書の構成(概要)

第2章で更年期と高血圧の関係を解説します。第3章は漢方から見た見方、第4章は体質・症状別のおすすめ漢方薬、第5章は生活習慣の改善ポイント、第6章はまとめと注意点です。

漢方は体全体のバランスを重視します。個々の症状や体質に応じて選ぶことが重要です。最後に、薬の併用や持病がある場合は必ず医師や薬剤師に相談してください。

更年期と高血圧の関係

ホルモン変化と血管の影響

更年期では女性ホルモン(エストロゲン)が急に減ります。エストロゲンは血管をしなやかに保つ働きがあるため、減少すると血管が硬くなりやすく、血流が悪くなります。これにより収縮期血圧が上がりやすくなり、高血圧の発症リスクが高まります。具体例としては、以前より血圧が高くなったり、薬を飲むよう勧められたりすることが増えます。

自律神経の乱れと症状の関係

更年期に現れるホットフラッシュ(ほてり)やのぼせ、イライラ、不眠は自律神経の乱れを示します。自律神経が不安定だと血管の収縮・拡張がうまくいかず、短時間で血圧が上下しやすくなります。したがって、これらの症状があると血圧の変動が大きくなりやすい点に注意が必要です。

生活習慣の影響

更年期は体重が増えやすく、運動量が減る人も多いです。塩分の取りすぎや飲酒、睡眠不足、慢性的なストレスは血圧を上げる要因です。たとえば、味の濃い加工食品やインスタント食品を常食すると塩分過多になりやすく、血圧管理が難しくなります。

日常でできる気をつけ方

・家庭での血圧測定を習慣にして、変化を記録しましょう。
・塩分は「薄めでもおいしい工夫」を心がけ、漬物やスープの量に注意します。
・適度な有酸素運動(散歩や軽い体操)を週数回取り入れましょう。
・深呼吸や入浴で自律神経を整える時間を作ると良いです。
・血圧が高めであったり症状が強い場合は、医師に相談して治療や検査を受けてください。

漢方から見た高血圧と更年期

気・血・水の考え方

漢方は「気(エネルギー)・血(血液や栄養)・水(体の水分)」のバランスを重視します。これらが滞ると体の調子が崩れ、血圧も高くなりやすいと考えます。例えば、冷えで血の巡りが悪くなると肩こりや頭痛とともに血圧の乱れが出ることがあります。

更年期に多い証(瘀血・気滞・気虚)

  • 瘀血(おけつ): 血の巡りが滞り、刺すような痛みや肩こり、舌の色が暗いなどが見られます。更年期はホルモンの変動で血の巡りが悪くなりやすく、これが高血圧に関係することがあります。
  • 気滞(きたい): ストレスやイライラで気の流れが停滞し、胸の張りやのぼせ、頭重感が出ます。血圧の変動が大きい場合に当てはまりやすいです。
  • 気虚(ききょ): エネルギー不足で疲れやすく、めまいや立ちくらみを伴うことがあります。血圧低下と高血圧の波が交互に来る場合もあります。

診断と処方の考え方

西洋薬のように一つの数値だけを下げるのではなく、全身の状態や他の更年期症状(ほてり、汗、疲労感など)を総合的に見て処方を決めます。例えば瘀血が強ければ血の巡りを良くする方剤、気滞が目立てば気を巡らせる方剤、気虚なら補う処方を選びます。

漢方で期待できる働きと注意点

漢方は体質改善を目指し、複数の症状を同時に整えることが期待できます。ただし、効果が出るまで時間がかかること、既に飲んでいる降圧剤との相互作用があることもあるため、医師や漢方医に相談して併用することが大切です。

体質・症状別 おすすめの漢方薬

更年期の不調と高血圧に対して、体質や症状ごとに適した漢方薬を分かりやすくまとめます。必ず医師・薬剤師の相談を受けてください。

  • 加味逍遙散(かみしょうようさん)
  • 適応:疲れやすい、のぼせ、イライラ、ホットフラッシュ、精神不安、肩こり
  • こんな方に:仕事や家事で疲れやすく、気分の浮き沈みがある方に向きます。更年期障害の第一選択としてよく用いられます。
  • 注意点:胃腸が弱い場合や薬との併用は相談を。

  • 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

  • 適応:気が張りやすい、ストレス、不眠、動悸、高血圧、神経過敏
  • こんな方に:緊張しやすく心拍が高くなる人に向きます。不安感や不眠が強い場合に検討します。

  • 八味地黄丸(はちみじおうがん)

  • 適応:疲れやすい、下半身の冷え、むくみ、夜間尿、腰痛
  • こんな方に:下半身の冷えや頻尿が気になる中高年の方に使われます。

  • 大柴胡湯(だいさいことう)

  • 適応:体力があり、肩こり、便秘、肥満傾向
  • こんな方に:比較的体力があり、便秘や肩こりを伴う肥満傾向の方に向きます。

  • 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

  • 適応:体力はややあり、のぼせ、ホットフラッシュ、下半身の冷え、頭痛、肩こり
  • こんな方に:のぼせと下半身の冷えが同時にある方に適します。

  • 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

  • 適応:上半身の火照り、イライラ、不眠、高血圧
  • こんな方に:のぼせや高血圧に即効性を期待する場合に用いられることがあります。

  • 七物降下湯(しちもつこうかとう)

  • 適応:高血圧で降圧剤を使わず血圧が安定した症例あり
  • こんな方に:漢方で血圧を整えたい方の選択肢の一つです。

漢方は体質と症状の組み合わせで選びます。服用中の薬や既往症により選択が変わりますので、必ず専門家のカウンセリングを受けてください。

漢方とあわせて行いたい生活改善

1) 定期的な血圧測定と記録

朝(起床後)と夜(就寝前)に毎日同じ条件で測り、手帳やアプリに記録します。測る時は椅子に座って5分ほど安静にし、同じ腕で測定します。記録を見れば変化に気づきやすく、漢方や薬の効果判定にも役立ちます。

2) 塩分を控えめにしてバランスのよい食事

味付けは薄めにし、だしや酢、香味野菜で旨みを出します。具体例:スープは塩を減らして野菜を多めに、醤油やみそは小皿で使う。間食は塩分や糖分の多い加工食品を控え、果物やナッツを選びます。

3) 適度な運動を習慣にする

無理なく続けられる運動を週3回以上を目安に取り入れます。自宅でできる例:スクワット10~15回×2セット、かかと上げ20回×2セット、ふくらはぎのマッサージや歩行を毎日30分。息が弾む程度の有酸素運動が心血管にも良いです。

4) 睡眠とストレスの管理

毎日同じ時間に寝起きする、就寝前のスマホを控えるなど睡眠習慣を整えます。ストレス対策は深呼吸や簡単な瞑想、趣味や友人との会話を取り入れて心身を休めましょう。

5) 体重管理と生活習慣の見直し

体重の増減は血圧に影響します。体重は週1回計り、食事の量を少しずつ調整して過度なダイエットは避けます。アルコールは適量にし、喫煙は控えましょう。

6) 漢方との併用での注意点

現在の薬や持病は必ず医師・薬剤師に伝え、自己判断で薬を中止しないでください。漢方は生活改善と合わせることで力を発揮します。異常な数値やめまい、胸痛などが出たらすぐに受診してください。

まとめと注意点

更年期の高血圧は、女性ホルモンの低下や自律神経の乱れが背景にあり、血圧だけでなく不眠・のぼせ・めまいなどの症状が同時に出ることが多いです。漢方は体質や全身のバランスを見て、血圧と更年期症状をまとめて和らげることを目指します。短期間で効果が出る場合もありますが、多くは数週間〜数か月かけて体調が整います。

注意点
- 自己判断で市販の漢方を長期間服用しないでください。症状や体質で処方が変わります。
- すでに西洋薬(降圧薬など)を服用している方は、医師や薬剤師に相談してください。薬の相互作用や副作用のリスクを避ける必要があります。
- 血圧は家庭でも定期的に測り、変化を記録してください。急激な上昇や著しい不調があればすぐ受診を。

日常の心がけ
- 塩分・飲酒・喫煙を控え、適度な運動と睡眠を大切にしてください。
- 漢方は個別処方が基本です。信頼できる医師や漢方専門の医療機関で相談し、自分に合った治療計画を立てましょう。

総じて、漢方は更年期の高血圧に対する選択肢の一つです。安全に、そして効果的に活用するために、専門家との連携を心がけてください。

-高血圧予防と血圧管理
-, ,