はじめに
妊娠中は体の変化が大きく、血圧も普段と違うことがあります。本記事は「妊娠中に血圧が80台になる」ことについて、意味や心配点、対処法までをやさしくまとめた入門です。妊娠中の血圧は胎児や母体の健康に関わるため、正しい知識を持つことが大切です。
この章では、記事の目的と読み方を説明します。
- 目的:妊娠中の低めの血圧(例:上の数値が80台)について、基礎知識と対応の考え方を分かりやすく伝えます。
- 対象読者:妊婦さん、ご家族、妊娠を考えている方、医療機関で説明を受けたけれど不安が残る方向けです。
- 読み方のポイント:具体的な数字や症状の記載が出てきます。気になる症状がある場合は自己判断せず、まずはかかりつけ医や助産師に相談してください。
この先の章で、正常な血圧の範囲、低血圧の原因と症状、危険性の判断、日常でできる対処法や医師が重視するポイントを順に解説します。安心して読み進めてください。
妊娠中の血圧の正常値
基本の目安
妊娠中の一般的な目安は、収縮期(上の値)120mmHg未満、拡張期(下の値)80mmHg未満です。これが「正常範囲」として広く使われます。
高血圧と低血圧の定義
妊娠高血圧症候群は、収縮期140mmHg以上または拡張期90mmHg以上で診断されます。一方、収縮期90mmHg未満、拡張期60mmHg未満は低血圧の目安です。
妊娠中の血圧の変動
妊娠初期から中期にかけては血管が広がりやすく、血圧がやや下がることが多いです。妊娠後期になると元に戻るか、少し上がることがあります。これは体の血液量が増えるためです。
測定のポイント
血圧は安静時に測り、同じ腕で測定すると比較しやすくなります。家庭用の血圧計を使う場合は、椅子に座り足を組まずに測ってください。
受診する目安
血圧が高め(収縮期140mmHg以上、拡張期90mmHg以上)や極端に低い(収縮期90mmHg未満、拡張期60mmHg未満)場合は早めに医療機関に相談してください。めまい、頭痛、視界の変化などの症状があれば即受診をおすすめします。
妊娠中に血圧が80台になる意味
収縮期(上の値)が80mmHg台の意味
収縮期血圧が80mmHg台は一般的に「低め」です。妊娠初期から中期にかけてはホルモン変化と血流の増加で血圧が下がりやすく、めまいや立ちくらみ、疲れやすさを感じることがあります。日常生活ではゆっくり立ち上がる、こまめに水分をとる、睡眠を十分にとるなどで改善する場合が多いです。
拡張期(下の値)が80mmHg台の意味
拡張期血圧が80mmHg台は正常からやや高めに当たります。妊娠中は拡張期の変動もありますが、継続的に高めなら医師と相談が必要です。特に他の症状(むくみ、頭痛、胎動の変化など)があれば早めに受診してください。
いつ受診するべきか
・めまいで日常動作が困難なとき
・失神(気を失う)や強い息切れがあるとき
・胎動が明らかに減ったと感じるとき
・収縮期が80台で倦怠感や冷や汗、顔色不良が続くとき
これらの場合は早めに医療機関を受診してください。
自宅でできる対処法と測定のコツ
・測るときは安静に座って1〜2分休んでから測定する
・同じ腕、同じ姿勢で測る
・朝晩など定期的に測ると状態の把握がしやすい
・水分補給、塩分は過不足に注意してバランス良く摂る
・無理をせず、長時間の立ち仕事や急な動作を避ける
気になる場合は遠慮せず医師や助産師に相談してください。早めの確認が安心につながります。
妊娠中の低血圧の原因と症状
原因
妊娠では黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響で血管がやわらかくなり、血圧が下がりやすくなります。加えて、妊娠中は血液量が増えますが循環のバランスが変わるため、心臓に戻る血流が一時的に減りやすくなります。その他の原因としては、貧血や長時間の立ち仕事、急に立ち上がること、脱水やつわりによる食事不足などがあります。
症状
代表的な症状はめまい・立ちくらみ、ふらつき、強い倦怠感です。動悸や息切れを感じる方もいます。まれに一時的に意識を失うこと(失神)も起こります。例として、朝ベッドから急に起き上がったときに視界が暗くなったり、長時間立っていてクラっとすることが多いです。
気をつけるポイント
以下の症状があるときは受診を検討してください:意識が何度も遠のく、胸や背中の強い痛み、息苦しさが強い、胎児の動きが急に少なくなったと感じる場合です。これらは妊婦さんと赤ちゃんに影響を与えることがあるため、早めに相談しましょう。
妊娠中の低血圧は危険?
妊娠中の低血圧は、多くの場合それ自体が命に関わるほどの危険を引き起こすことはありません。日常生活では立ちくらみや疲れやすさが目立ちやすく、転倒による外傷のリスクが高まるため注意が必要です。
危険になるケース
- 強い立ちくらみや失神が繰り返すと、転倒や外傷につながります。
- 収縮期血圧(上の数値)が目安として90mmHgを下回り、めまいや冷や汗、意識障害がある場合は母体・胎児に影響する恐れがあります。極端な低血圧は胎児への酸素供給を妨げることがありますが、重篤な例は稀です。
いつ受診・救急を考えるか
- 立ちくらみで倒れた、意識を失った場合
- 激しいめまい、息苦しさ、胸の痛みがある場合
- 胎動が急に弱く感じる、出血がある場合
これらがあれば速やかに受診または救急を受けてください。
日常でできる対処法
- ゆっくり立ち上がる、長時間の立ち仕事を避ける
- 水分をこまめに摂る、塩分は医師の指示に従う
- 着圧ソックスを使う、横向きで休むと楽になることが多い
- 食事は少量を回数多く取る
医師が確認すること
- 血圧値の経時的な変化、貧血の有無、胎児の状態をモニターします。
- 必要なら原因に応じた治療や生活指導を行います。
全体として、軽度の低血圧は多くの妊婦さんで見られますが、症状が強い場合や急変があれば早めに医療機関に相談してください。
妊娠中の血圧管理と対処法
基本の対処法
安静にすることがまず大切です。立ちくらみやめまいを感じたら座るか横になり、頭を低くして休みます。こまめに水分を補給し、脱水を防ぎます。塩分は極端に控えず、医師の指示に従って調整してください。
日常でできる工夫
立ち上がるときはゆっくり行い、急に動かないようにします。食事は一度に大量に取らず、少量を頻回にすると血圧の変動が抑えられます。長時間の立ち仕事がある場合は合間に座るか足を休めます。弾性ストッキングを使うと下肢への血液うっ滞を減らせます。
寝る姿勢と休み方
仰向けで長時間寝ると子宮が大きな血管を圧迫し血圧が下がることがあります。横向き、特に左側を下にする姿勢が勧められます。枕で腰の下や背中を少し支えると楽になります。
症状が強いときの対応と医師への相談目安
強いめまい、意識消失、頻回の吐き気や胎児の動きの著しい減少があればただちに医療機関へ相談してください。目安として収縮期血圧が90mmHg以下になったり、症状が日常生活に支障を来す場合は医師に連絡します。
自宅での血圧管理のコツ
決まった時間に血圧を測り、起床時と安静時の値を記録します。測定時は同じ姿勢で、測定前は5分程度安静にすると安定した値が得られます。記録を持参すると診察がスムーズになります。
妊娠中の高血圧との違い
診断基準の違い
妊娠高血圧症候群は一般に血圧が140/90 mmHg以上で診断されます。診断は複数回の測定や臨床所見を総合して行います。一方、血圧が80台(収縮期が80前後、または拡張期が80前後を指す場合がある)では高血圧とは言えません。
母体・胎児へのリスク
妊娠高血圧は母体にけいれんや臓器障害、胎児に発育遅延や早産といった重大な影響を及ぼす可能性があります。管理が不十分だと入院や治療が必要になることがあります。血圧が80台は多くの場合リスクは低く、むしろめまいや立ちくらみといった症状が中心です。
症状と原因の違い
高血圧では頭痛、視力障害、上腹部痛などが現れることがあります。低めの血圧では疲れやすさ、立ちくらみ、冷えを感じることが多いです。原因も高血圧は血管や腎臓の負担、妊娠特有のホルモン変化が関係し、低血圧は体位変化や血液量の相対的不足が関係します。
管理と受診の目安
高血圧は厳重な経過観察と必要時の薬物治療が必要です。血圧が80台であっても、めまいや失神、胎動減少があれば速やかに受診してください。普段は水分補給やゆっくり立ち上がるなどの対策で改善することが多いです。
各国のガイドラインと血圧目標値
概要
日本や欧米のガイドラインは、妊娠中の血圧管理について完全に統一されていません。推奨される目標値や治療開始のタイミングに幅があり、個々の状況で判断が必要です。
推奨される目標値(目安)
- 一部のガイドラインでは、収縮期血圧(上の数値)を135〜150mmHg未満、拡張期血圧(下の数値)を80〜100mmHg未満とすることが示されています。これは妊娠中の安全と胎児への影響を両立させるための目安です。
目標値が国や学会で異なる理由
- 証拠となる臨床研究やリスク評価の方法が異なります。
- 母体の合併症(糖尿病、腎疾患など)や妊娠経過(単胎か多胎か)で最適な目標が変わります。
収縮期80mmHg台について
収縮期が80mmHg台になる場合は、多くの方で「やや低め」と判断されますが、提示された数値は重篤な疾患の基準には当たりません。症状(めまい、倦怠感、頻脈など)がなければ、経過観察で問題ないことが多いです。
臨床での扱い方
- 各国のガイドラインは参考として用い、個人の症状や妊娠週数、既往歴を踏まえて医師が判断します。
- 血圧が目標から大きく外れる場合は、受診や検査、投薬の見直しが行われます。
患者さんへのアドバイス
- ガイドラインの数値は目安です。日々の記録(自宅での血圧測定)を続け、気になる症状があれば早めに受診してください。
- 医師と目標値を確認し、自分の状態に合った管理計画を作ることが大切です。
まとめ
妊娠中に血圧が80台になることは、症状がなければ多くの場合問題ありません。妊娠では血管が広がりやすく、血圧が下がりやすくなりますから、その範囲に入ることがあります。
ただし、次のような症状がある場合はすぐに医師に相談してください:強いめまいや立ちくらみ、失神、息切れや胸痛、激しい頭痛や視覚の変化、腹痛や胎動の減少、安静にしても血圧が低い状態が続く場合。
自宅でできる対処法としては、水分をこまめにとる、小分けの食事をする、急に立ち上がらない、適度に塩分をとる、弾性ストッキングを使う、十分に休む、血圧を記録する、などがあります。貧血や薬の影響がないかも確認しましょう。
妊娠高血圧症候群は通常140/90mmHg以上で診断しますので、収縮期が80mmHg台は低めの範囲です。症状が軽ければ日常のケアで改善することが多いです。不安な場合や症状が強い場合は、早めに医療機関を受診してください。