目次
はじめに
妊娠高血圧症候群(以前は妊娠中毒症と呼ばれていました)は、妊娠中に血圧が上がったり、尿にタンパクが混ざったりすることがある病気です。軽く見えがちですが、母体と赤ちゃんの安全のために適切な観察や治療が必要です。
目的
- この章では、この記事の目的と構成を分かりやすくご案内します。退院の目安や退院後の過ごし方、医療費助成の手続きなど、実際に役立つ情報を中心にまとめます。
対象読者
- 妊娠高血圧症候群と診断された方、そのご家族、退院後の生活について不安がある方。
この記事で学べること(概要)
- 妊娠高血圧症候群の簡単な説明と入院・退院の判断基準
- 産後の経過観察と注意点
- 医療費助成の申請方法と期限
- 退院指導でよく聞かれるポイントと日常生活での注意点
使い方とお願い
- 本記事は一般的な情報を分かりやすくまとめたガイドです。個別の判断は必ず主治医と相談してください。急な症状(強い頭痛、視野のかすみ、息苦しさ、腹痛など)が出たら速やかに病院へ連絡してください。安心して退院し、産後を過ごせるようお手伝いします。
妊娠高血圧症候群とは
定義
妊娠高血圧症候群(PIH)は、妊娠20週以降に初めて血圧が上がる状態を指します。高血圧に加えて、尿にタンパクが出る(蛋白尿)や、肝臓・腎臓などの臓器に影響が出ることがあります。
原因とリスク要因
はっきりした原因はまだ完全には分かっていません。子宮と胎盤の血流や血管の変化が関係すると考えられています。高齢妊娠、初産、多胎(双子など)、肥満、糖尿病や既往に高血圧がある場合はリスクが高まります。
症状
自覚しにくいこともありますが、頭痛、めまい、突然のむくみ、尿量の減少などが現れたら受診してください。血圧は家庭でも測定できます。
診断と検査
妊婦健診で血圧測定、尿検査(蛋白の有無)、血液検査や臓器機能のチェックを行います。必要に応じて入院や胎児の心拍・発育の評価をします。
経過と治療の方針
多くは分娩後に改善しますが、重症例では薬で血圧を下げたり、早めに分娩をする場合もあります。医師が母子の状態を見て治療方針を決めます。
受診の目安
強い頭痛、視野の変化、息苦しさ、急激な体重増加や手足の強いむくみがあればすぐ受診してください。産科の指示を守り、定期的な検査を受けることが大切です。
入院・退院の目安
入院が必要な主なケース
- 家庭での血圧が160/110mmHg以上で続く場合
- 蛋白尿を伴い、頭痛・視力障害・上腹部痛など症状が強い場合
- 臓器障害や胎児への影響(胎動の減少、胎児発育遅延など)が疑われる場合
これらに該当するときは、詳しい検査と治療のため入院を検討します。
入院中の治療と管理
- 安静と頻回の血圧測定で状態を把握します。
- 必要に応じて降圧薬を投与します(経口または点滴)。
- 血液・尿検査や胎児心拍モニターで臓器や胎児の状態を確認します。
- 水分・栄養管理や薬の調整を行い、重症時は早期分娩の準備をします。
目的は母体の臓器障害を防ぎ、胎児の安全を確保することです。
退院の目安
- 母体の血圧や蛋白尿が落ち着き、日常生活に支障がないレベルまで回復したとき
- 降圧薬で血圧が管理でき、外来で継続治療が可能と判断されたとき
重症例や産後の高血圧が持続する場合は退院後も通院・治療が続きます。
退院後の通院と注意点
- 自宅で朝晩の血圧測定と体重管理を続けてください。
- 塩分を控え、十分な休息を取ることが大切です。
- 授乳と薬については医師や助産師と相談してください。
- 緊急受診の目安:息苦しさ、胸痛、強い頭痛や視力障害、血圧が急に高い場合。
異常があればためらわず受診してください。
産後の経過と注意点
産褥期(約6〜8週間)について
出産後の約6〜8週間を産褥期と呼びます。ホルモン変化や出血の回復、子宮の戻りが進む時期で、血圧や体調が不安定になりやすいです。退院後も自宅での観察が大切です。
血圧の管理
- 毎日同じ時間に血圧を測り、記録してください。安静時に測ると安定した値が得られます。
- 出産後も高血圧が続く場合は、すぐに受診してください。薬の調整や追加検査が必要になることがあります。
すぐに受診が必要な危険サイン
- 強い頭痛、めまい
- 視界がぼやける・チカチカする
- 手足や顔の急なむくみ、体重の急増
- 胸痛、息切れ、強い倦怠感
これらがあれば我慢せず、速やかに医療機関へ連絡してください。
生活上の注意点
- 無理な家事や重い物を持つことは避け、休養を優先してください。
- 塩分を取りすぎない食事を心がけ、バランスの良い栄養を摂って回復を助けましょう。
- 授乳中の薬については医師に確認してください。母乳や赤ちゃんへの影響を考慮します。
フォローアップと相談
- 退院後の外来受診日を守り、血圧・尿検査など指示された検査を受けてください。
- 気分の落ち込みや生活に支障が出る疲労感が続く場合は、産後うつの可能性もありますので早めに相談してください。
医療費助成申請と退院後の手続き
申請期限と窓口
ほとんどの自治体では退院後3か月以内に申請します。自治体によっては30日以内など短い場合もあるため、退院時に必ず確認してください。原則は入院前または入院中の手続きですが、やむを得ず退院後でも認められます。
必要書類(例)
- 診断書または入院証明書
- 領収書(入院分・治療分)
- 母子手帳の写し
- 健康保険証、身分証明書
- 振込口座のわかる書類
自治体により追加書類を求める場合があります。
申請の流れ
- 役所や保健センターの指定窓口で申請書を受け取ります。2. 必要書類を揃えて提出します。3. 審査後、還付または負担軽減が決まります。手続きは窓口または郵送で行える場合があります。
注意点
期限を過ぎると助成が受けられないことがあります。領収書は必ず原本を保管し、コピーも取っておくと安心です。支給対象の日数や金額は自治体ごとに異なりますので、退院前に確認し、早めに手続きを進めてください。
退院指導内容(産後の生活で注意すべきこと)
安静と日常生活
退院後は体に負担をかけないことを最優先にしてください。短時間でもこまめに休む、赤ちゃんと一緒に眠るときは安全に配慮する、重いものは持たないなど具象的に実行しましょう。家族に家事や買い物を頼むと回復が早くなります。
傷や出血(悪露)のケア
会陰や帝王切開の傷は清潔に保ち、強い痛みや赤み、膿が出るときは受診してください。悪露は徐々に量が減りますが、急に量が増えたり、悪臭や血の固まりが大量に出る場合は連絡してください。
血圧と自己管理
血圧は定期的に測って記録しましょう。家庭用血圧計で朝と夕の測定が目安です。目安として収縮期(上)が140以上、拡張期(下)が90以上が続く場合は病院へ相談してください。薬は指示どおりに服用し、中止しないでください。
体調の悪化や緊急時の連絡
次の症状があるときは早めに連絡または受診してください:
- 強い頭痛や目のかすみ
- 胸の痛み、息切れ
- 高熱(目安:38℃以上)
- 腿の強い痛みや腫れ(血栓の疑い)
- 大量の出血や悪臭のある分泌物
授乳と乳房のケア
授乳は母子ともに負担になりすぎない範囲で続けましょう。乳房に赤みやしこり、発熱があるときは乳腺炎の可能性があるため相談してください。水分とたんぱく質を十分に取りましょう。
生活習慣と運動
無理のない範囲で軽い散歩や骨盤底筋(骨盤底筋体操)を行うと回復が早くなります。激しい運動や性行為、長時間の入浴は医師の許可まで控えてください。
精神面のケア
産後は気分の浮き沈みがあります。気持ちが沈み続ける、不安が強い、赤ちゃんに対して普段と違う感情がある場合は早めに医療スタッフや家族に相談してください。必要なら地域の相談窓口や産後ケアを紹介します。
受診・フォローアップ
退院後の検診日程は必ず守ってください。通常は産後1〜2週間、6週間の診察が目安ですが、個々の状態で調整します。疑問や不安は遠慮なく連絡してください。