高血圧予防と血圧管理

妊娠中の高血圧腎症の症状や原因とリスクを徹底解説

はじめに

妊娠高血圧腎症(旧称:子癇前症)は、妊娠20週以降に高血圧と尿中の蛋白(タンパク)が現れることで気づかれる病気です。母体と胎児の両方に影響を及ぼす可能性があり、早期発見と適切な管理が重要になります。

本記事の目的

  • 症状や兆候をわかりやすく説明します。
  • 発症の仕組みや診断基準、合併症について整理します。
  • 日常でできる予防や管理のポイントを紹介します。

誰に向けた記事か

妊娠中の方、そのご家族、妊娠を考えている方、そして医療に携わる方にも読みやすいようにまとめます。専門用語はできるだけ避け、必要な場合は具体例で補足します。

読み方のポイント

  • 毎回の妊婦健診での血圧や尿検査が大切です。
  • 少しの変化でも不安なときは遠慮せず受診してください。

以降の章で、症状・原因・診断・予防といった具体的な内容を順に解説します。

妊娠高血圧腎症とは何か

定義

妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降に初めて高血圧と蛋白尿(尿にたんぱくが出ること)が現れる病気です。妊娠前に高血圧や腎疾患がなかった場合に診断します。症状は軽い場合もあれば、命に関わる重症に進むこともあります。例として、急に血圧が上がり頭痛やむくみが強く出ることがあります。

名前の変遷と位置づけ

以前は「子癇前症」と呼ばれていましたが、2018年のガイドライン改定で現在の名称になりました。妊娠高血圧症候群(HDP)の中でも、母体と胎児に最も影響を与えるタイプです。

なぜ重要か

母体ではけいれんや臓器障害、胎児では発育遅延や早産のリスクが高まります。早期発見と適切な管理がとても重要です。

かかりやすい人(例)

年齢が高めの妊婦、初産婦、肥満や糖尿病がある人などは注意が必要です。定期検診で血圧と尿検査を受けてください。

主な症状・兆候

診断の目安

妊娠20週以降に、収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上になり、1日あたり0.3g以上の蛋白尿があると診断基準に当てはまります。腎機能が障害されると腎不全に進行することがあり、重症化すれば肝臓や脳にも影響が出ます。

よく見られる症状

  • むくみ:顔や手足のむくみ、短期間での体重増加(例:数日で1〜2kg以上)
  • 頭痛:いつもと違う強い頭痛が続く
  • 視覚障害:かすみ目、チカチカする光、視野の欠損
  • 倦怠感や吐き気:食欲不振や胃部の不快感
  • 尿量の変化:尿が少なくなる、泡立ちが強くなる

重症のサイン(早急な受診が必要)

  • けいれん発作(子癇)や意識障害
  • 激しい腹痛(右上腹部・みぞおち)、急な呼吸困難
  • 出血しやすい、皮下出血が増える
    これらは肝機能障害や血液凝固異常、肺や脳への影響を示すことがあります。

日常でできる注意点

  • 妊婦健診での血圧・尿検査を必ず受ける
  • 家庭で血圧や体重を定期的に記録する
  • 強い頭痛や視覚異常、急なむくみを感じたら早めに医療機関へ連絡する

症状は人によって異なり、軽い段階では気づきにくいこともあります。気になる変化があれば遠慮なく相談してください。

妊娠高血圧腎症の原因と発症メカニズム

概要

明確な単一の原因はまだはっきりしていません。多くの場合、胎盤の作り方に問題が起きることと、母体の免疫や血管の反応が絡み合って発症すると考えられます。

胎盤形成異常(らせん動脈の役割)

胎盤は母体の血液から赤ちゃんに酸素や栄養を渡します。正常ではらせん動脈という血管が深く広がって胎盤に豊富に血を送ります。らせん動脈が十分にできないと胎盤に血が行き渡らず、胎盤がストレスを受けます。例えると、水の流れが細いホースで止まると草が枯れるように、胎盤も十分に働けなくなります。

免疫の関与

母体は本来、胎児を攻撃しないよう免疫を調節しますが、そのバランスが崩れると胎盤の働きが悪くなることがあります。免疫細胞や炎症の信号が過剰に出ると、胎盤が異常な物質を出してしまいます。

母体血管の障害と凝固能の亢進

胎盤が出す因子(抗血管因子や炎症性物質)は母体の血管内皮に作用し、血管がうまく働かなくなります。これにより血圧が上がり、腎臓に負担がかかって尿にたんぱくが出ます。胎盤周辺での小さな血液のかたまり(微小血栓)ができやすくなり、胎盤機能がさらに低下します。したがって母子ともに酸素や栄養の不足が起きやすくなります。

臨床的なイメージとリスク要因

結果として高血圧やむくみ、尿たんぱくが現れます。初妊婦、多胎妊娠、高齢、既往に高血圧や糖尿病がある場合は起こりやすいです。普段の健診で胎盤や血圧の変化を早めに見つけることが大切です。

合併症と母子へのリスク

妊娠高血圧腎症は母体と胎児の双方に深刻な合併症を引き起こします。早期発見と迅速な対応が重要です。

母体への主な合併症

  • 腎不全:尿が出にくくなり、血清クレアチニンが上がることがあります。透析が必要になることもあります。
  • 肝障害・HELLP症候群:肝酵素の上昇、黄疸や上腹部痛が起きる場合があります。重篤では肝壊死や出血を招きます。
  • 脳出血・脳浮腫:強い頭痛や意識障害、視覚障害が現れることがあります。命にかかわることがあります。
  • けいれん発作(子癇):突然の発作で、母体と胎児に即時危険が及びます。抗けいれん薬での管理が必要です。
  • 血小板減少・DIC:止血しにくくなり、大量出血や血栓の問題が生じます。
  • 心肺合併症:肺水腫や心不全で呼吸困難になることがあります。

胎児へのリスク

  • 胎児発育不全(FGR):胎盤機能が低下し、胎児の成長が遅れます。
  • 胎児機能不全:胎児心拍の異常や胎児機能の低下が起きやすく、緊急分娩が必要になります。
  • 胎盤早期剥離:強い腹痛と出血で胎児に急激な危機が生じます。
  • 早産・新生児合併症:予定より早い分娩で新生児の呼吸や体温調節などの問題が出ます。

重症化のサインと対応

強い頭痛、視野障害、上腹部痛、尿量減少、突然の出血、胎動の減少が見られたらすぐ医療機関へ受診してください。治療は血圧管理、マグネシウム硫酸によるけいれん予防、胎児監視、必要時は早期分娩(帝王切開を含む)です。

予後とフォロー

多くは適切な治療で改善しますが、腎機能や高血圧は長期フォローが必要です。次の妊娠でもリスクが上がるため、事前の相談と管理が勧められます。新生児は集中治療で経過観察することが多いです。

診断基準と種類

診断の基本

  • 妊娠20週以降に測定した収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上が目安です。繰り返し測定して確認します。
  • 尿蛋白(蛋白尿)が重要な目安です。24時間尿で300mg以上、または尿蛋白/クレアチニン比が0.3以上、簡易検査紙で+の場合も参考にします。

主な種類

  • 妊娠高血圧症:高血圧のみで蛋白尿がない状態です。赤ちゃんや母体への影響は比較的少ないことが多いですが経過観察が必要です。
  • 妊娠高血圧腎症(子癇前症/プレエクラムプシア):高血圧に加えて蛋白尿や腎障害が認められる状態です。臓器への負担が強く管理が必要です。
  • 加重型妊娠高血圧腎症(スーパーインポーズド):妊娠前または20週以前から慢性の高血圧や腎疾患があり、妊娠中に悪化したタイプです。

重症を示す所見(例)

  • 血圧が160/110mmHg以上、血小板減少、肝酵素上昇、腎機能の悪化、呼吸苦(肺水腫)、強い頭痛や視野障害などです。これらがあれば速やかに医療機関で対応が必要です。

検査の例

  • 定期検診での血圧測定、トイレでの採尿(簡易検査紙)、血液検査で肝腎や血小板を調べます。異常があれば詳しい検査を行います。

日常では定期検診を大切にし、体調の変化があれば早めに相談してください。

症状が出にくいことの注意点

妊娠高血圧腎症は自覚症状が乏しく、気づかないうちに進行しやすい病気です。以下に、注意するポイントを分かりやすくまとめます。

なぜ気づきにくいのか

妊娠中はむくみや疲れ、頭痛などの症状がよく起こります。そのため、病気の初期症状を「妊娠のせい」と考え見逃すことがあります。自覚症状だけで安心せず、検査結果を重視してください。

定期健診と検査の重要性

・血圧測定:妊婦健診で必ず測ります。家庭での血圧測定も有効です。休んでから同じ姿勢で測ると正確です。
・尿検査:尿のたんぱくを調べます。自覚症状がなくても異常が出ることがあります。

日常でできる注意点

・家庭で血圧を記録する(朝と夜、安静時)
・体重の急激な増加や顔や手足のむくみをチェックする
・尿が泡立つ、尿量が減ったと感じたら注意する
・胎動の変化も確認する

緊急に受診すべきサイン

・強い頭痛や視野の変化(まぶしく見える、チカチカする)
・みぞおち(上腹部)や右側の痛み
・息苦しさ、急激なむくみ、尿が出にくい
・目安として、収縮期血圧が160mmHg以上、拡張期が110mmHg以上は早めに受診してください。

受診時に伝えるとよいこと

家庭での血圧の記録、体重の変化、むくみの程度、胎動の変化、服用中の薬や既往歴を伝えると診察がスムーズです。

自覚症状が乏しいからこそ、定期健診と日々の観察が大切です。少しでも気になる点があれば遠慮せずに受診してください。

予防と管理

リスクを知って医師と相談する

妊娠高血圧腎症を完全に防ぐ方法はまだ確立していません。ただし、年齢が高い、肥満、糖尿病、多胎妊娠などのリスク因子がある方は妊娠前や妊娠初期に産科やかかりつけ医に相談してください。リスクを把握すると検診頻度や管理方針が決まりやすくなります。

食事と体重管理

特別な食事制限はありませんが、バランスのよい食事と適切な体重増加を心がけます。具体的には野菜や果物、たんぱく質を適量取り、塩分を極端に多くしないことが大切です。医師や栄養士と目標体重や食事プランを話し合ってください。

適度な運動と休養

無理のない範囲での散歩や軽い運動は血圧管理に役立ちます。疲れやすいときは十分に休むようにして、運動は医師の指示に従って行ってください。

定期検診と早期発見

定期検診で血圧と尿蛋白のチェックを受けることが重要です。頭痛・浮腫(むくみ)・視覚異常など気になる症状があれば、すぐに受診しましょう。早く見つかれば治療でリスクを下げられます。

薬や入院の判断

必要な場合は降圧薬や入院での管理を行います。薬は医師が母子の安全を考えて選びますので、自己判断で中断しないでください。治療の目的は母子の健康を守ることです。

まとめ

妊娠高血圧腎症は妊娠後期に高血圧と蛋白尿が現れる病気で、母子ともに重篤な合併症を招く可能性があります。早期発見と適切な管理が最も重要です。以下を目安に日々の対応と受診を心がけてください。

  • 定期検診を欠かさない
  • 毎回の妊婦健診で血圧と尿検査を受けることが基本です。家庭で血圧を測ると異常の早期発見に役立ちます。

  • 注意する症状

  • 強い頭痛、めまい、視野のかすみ、急な体重増加や手足のむくみ、上腹部の痛みなどが出たらすぐ受診してください。

  • 日常生活でできること

  • 休息を十分に取り、塩分を控えめにするなど生活習慣を整えます。軽い散歩など無理のない範囲で体を動かすことも有効です。

  • 医療での管理

  • 軽症なら経過観察と薬物や安静で改善を図ります。重症の場合は入院や早期分娩が必要になることもあるため、医師とよく相談してください。

  • 産後のケア

  • 血圧は産後も安定するまで観察が必要です。将来の心血管リスクが高くなることがあるため、退院後も生活習慣に注意します。

  • 支援を求める

  • 不安や疑問は遠慮せず家族や医療者に相談してください。早めの情報共有が適切な対応につながります。

定期検診を大切にし、気になる症状があればすぐ受診してください。早期対応が母子の安全を守ります。

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