目次
はじめに
妊娠中に「目がチカチカする」と感じると、不安になる方は多いです。本記事では、その感覚がどのような意味を持つか、特に妊娠高血圧症候群(妊娠中の高血圧)との関係を中心に、分かりやすく解説します。
この記事の目的
- 「目がチカチカする」症状がどんな状態かを知る
- 妊娠高血圧症候群の可能性とリスクを理解する
- 受診の目安や日常でできる対処法を把握する
読んでほしい人
妊娠中の方・そのご家族・妊娠を予定している方、また妊婦さんを診る医療従事者や助産師の方にも役立つ内容です。
大切なこと
目のチカチカは必ずしも重い病気とは限りませんが、高血圧や頭痛、むくみを伴う場合は早めの受診が大切です。この記事を通じて、適切な行動がとれるようにサポートします。
妊娠中に「目がチカチカ」する症状とは
どんな感覚か
妊娠中に「目がチカチカする」と表現される症状は、人によってさまざまです。光がちらつく、ギラギラする、視界に稲妻のような線が走る、ぼやける、部分的に見えなくなる(暗点)などで訴えられます。多くは突然現れ、数秒〜数十分続くことがあります。
具体的な例
- 頭を動かしたときに視界の端でチカチカ光る
- 明るい光を見たときにギザギザした模様が広がる
- 片目あるいは両目でピカッと光る点が現れる
- 視界の一部が黒く抜ける(暗点)や、全体がぼやけることがある
出現の仕方と持続時間
多くの場合は突然で、短時間で治まります。ただし症状が繰り返し出る、徐々に強くなる、長時間続く場合は注意が必要です。明るい場所や疲れ、強い光刺激で悪化することがあります。
よくある伴う症状
「目がチカチカ」に加えて、頭痛、吐き気、めまい、視力低下、目の痛みを感じることがあります。これらが一緒に現れる場合は身体全体の状態を示すサインになることがあるため、軽視しないでください。
医学的な呼び名
医学では「眼華閃発(がんかせんぱつ)」や「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ぶことがあります。どちらも視覚に関わる一時的な異常を指し、原因や重症度は人によって異なります。
妊娠中の高血圧と「目がチカチカ」の関係
妊娠高血圧症候群とは
妊娠20週以降に血圧が高くなる病気で、妊婦さんの約5〜10%が経験します。軽症でも経過観察が必要で、重症化すると母子ともに危険になることがあります。
目がチカチカする理由
血圧が上がると、目の奥にある網膜の血流が不安定になります。血管が詰まったり出血したりすると、光がちらつく、視界が暗くなるといった症状が出ます。脳の圧力が上がることで視覚に影響することもあります。
どんな視覚症状が出るか
・一時的にまぶしく感じる、光がチカチカする
・視界がぼやける、部分的に見えにくくなる
・暗くなる、ものが二重に見える
これらは突然起きることが多く、数分から数時間続きます。
頻度と重要性
視覚症状は妊娠高血圧症候群の前兆や重症化のサインです。放置すると子癇(てんかん発作に似た状態)につながる危険性があるため、症状が出たら早めに受診してください。
妊娠高血圧症候群のその他の症状と特徴
妊娠高血圧症候群は「目がチカチカ」だけでなく、さまざまな症状が現れます。ここでは代表的な症状と、そのときにどのように考えればよいかをやさしく説明します。
頭痛
強い頭痛や、普段と違うしつこい頭痛は要注意です。鎮痛薬で治まらない、だんだん強くなるときは受診を検討してください。
むくみ(特に手足や顔)
妊娠中はむくみやすいですが、顔や手が急に腫れて指輪が抜けない、朝からむくみが強い場合は注意が必要です。
動悸・息切れ
日常の動作で息切れする、動悸が強く感じる場合は体に余分な水分がたまっている可能性があります。息苦しさが強ければ早めに受診してください。
手足のしびれ
指先のしびれや感覚の異常が続くときは相談を。神経への影響や全身の状態が関係することがあります。
上腹部の痛みや吐き気
右上腹の痛みや激しい吐き気は肝機能に影響が出ているサインの場合があります。痛みが強いときは危険信号です。
急激な体重増加
短期間に体重が急増する(たとえば1週間に1kg以上)はむくみによることが多く、注意が必要です。
尿蛋白
尿の検査で蛋白が出ると腎臓の負担を示すことがあります。自覚症状がなくても検診で見つかることがあります。
複数の症状が同時に現れる、または急に悪化する場合は重症化の兆候です。どれか一つが軽くても、重なると危険度が高まります。気になる変化があれば、かかりつけ医や産科に早めに相談してください。
どんなときに受診が必要か
すぐに受診・相談が必要な症状
- 目がチカチカする・視界がチカチカする
- 頭痛が強くて鎮痛薬で改善しない
- 手足や顔のむくみが急に強くなった
- 視界が急にぼやける、見えにくくなる
- 激しい吐き気・嘔吐、意識がもうろうとする
これらは妊娠高血圧症候群や子癇(けいれん)につながる危険なサインです。速やかに産婦人科に連絡してください。症状が強い場合は救急外来や119番での受診をおすすめします。
受診前にできること
- 安静にして横になる(左側を下にすると子宮への血流が保たれやすい)
- 視界が悪いときは運転しない。家族や救急を頼る
- 意識障害やけいれんが起きたら、口に物を入れず、頭を守り横向きにする。すぐに救急車を呼ぶ
受診時に伝えると良い情報
- 妊娠週数、これまでの血圧や症状の経過
- いつからどのように症状が出たか、頻度や程度
- 服薬や既往症(高血圧や腎臓病など)があれば伝える
受診で行われること(簡単に)
- 血圧測定、尿検査(尿蛋白の確認)、血液検査
- 胎児の状態確認(心拍や超音波)
- 必要なら入院や点滴・薬の投与
早めの受診が母子の安全につながります。迷ったときは産婦人科に相談してください。
原因・メカニズム
胎盤形成と血管の変化
妊娠高血圧症候群では、胎盤のつくり方に異常が起こると考えられています。胎盤がうまくできないと、母体の血管が強く収縮したり、血管の内側の働き(内皮機能)が乱れます。例えると、ホースの内側がザラザラになって水が流れにくくなるような状態です。これが全身の血圧上昇につながります。
血圧が目と脳に及ぼす影響
血圧が高いと、小さな血管が傷つきやすくなります。眼の奥にある網膜の血管では、血管が細くなったり、血の塊や出血が出たりして、視界がチカチカしたり霞んだりします。脳の後ろ側(視覚をつかさどる部分)では、血流の乱れや一時的なむくみが起きると、光が走るように見えたり、一時的に見えなくなったりすることがあります。
炎症と血管透過性の増加
血管の内側が傷つくと、血管から水分やタンパク質が漏れやすくなります。眼では網膜やその周りにむくみ(浮腫)が生じ、像がぼやけます。脳では同様のむくみが視覚に関わる働きを乱し、チカチカや視野欠損を招きます。
基礎疾患や遺伝の関与
もともと高血圧や糖尿病がある方、初めての妊娠や多胎妊娠、高齢出産などはリスクが高くなります。また家族歴があると発症しやすい傾向があります。これらは血管のもろさや胎盤の形成に影響し、症状を引き起こしやすくします。
どうして急に視覚症状が出るのか
短時間で血圧が上がると、血管の収縮や血流の変化が急に起きます。そのため、ある日突然チカチカや強いまぶしさ、視力低下を感じることがあります。こうした変化は一時的でも、重症化すると長引くことがあるため注意が必要です。
対処法・治療法
安静と生活上の注意
症状が出たらまず安静を心がけます。横になるときは左側を下にすると子宮への血流がよくなります。日常は無理をせず、仕事や家事の負担を減らして血圧の変動を避けてください。自宅で血圧計があれば定期的に測り、記録して医師に見せましょう。
食事療法(塩分とエネルギー)
塩分を控えることが基本です。ただし極端な制限は避け、かえって栄養不足にならないようにします。外食や加工食品の取りすぎに注意し、だしや香辛料で味を調えると減塩しやすくなります。体重管理も大切で、必要なエネルギーは医師や栄養士の指導に従って確保してください。
降圧薬の使用
血圧が高い場合は薬を使うことがあります。妊娠中に比較的安全とされる薬を医師が選びますので、自己判断で中止しないでください。薬は急に効くものもありますが、医師は母体と赤ちゃんの両方の状態を見て調整します。
痙攣(子癇)予防
重症の妊娠高血圧では痙攣を防ぐために点滴治療(マグネシウム製剤)を行うことがあります。これは発作を防ぐための標準的な治療で、一定期間病院での管理が必要です。
重症化した場合の分娩の検討
母体や胎児の状態が悪化したときは、早めに分娩を行う判断をすることがあります。赤ちゃんの安全と母体の回復を優先するためで、誘発分娩や帝王切開が選択されることもあります。
経過観察と医療連携
定期的な受診で血圧、尿検査、血液検査、胎児の状態をチェックします。異常を感じたらすぐに受診してください。医師や助産師、栄養士と連携して治療計画を立てることが大切です。
他の原因との鑑別
妊娠中に「目がチカチカする」症状は、妊娠高血圧症候群以外にもさまざまな原因があります。ここでは代表的なものをわかりやすく説明します。
片頭痛(閃輝暗点)
閃輝暗点はギザギザの光や視野の一部が欠ける現象で、通常は数分〜1時間ほど続きます。頭痛を伴うことが多いですが、頭痛がないケースもあります。妊娠中に初めて出た場合は念のため受診してください。
貧血・立ちくらみ
起立時に血圧が下がると一時的に視界がチカチカしたり暗くなったりします。疲れやすさ、顔色が悪いなどの症状がある場合は血液検査で貧血を調べます。
眼精疲労・ドライアイ
長時間のスマホや読書で目の疲れがたまると、チカチカ感やまぶしさが出ます。休憩や点眼で改善することが多いです。
眼科の病気(網膜剥離・出血など)
急にフラッシュや浮遊物(飛蚊症)、視力低下が起きたら網膜剥離や出血の可能性があり、緊急の眼科受診が必要です。糖尿病や高血圧がある方は特に注意してください。
薬の副作用・心因性
一部の薬や強い不安、過換気でも視覚症状が出ることがあります。服薬状況や精神状態も確認します。
見分け方と受診の目安
・視力が下がる、視野が欠ける、持続する強い症状や頭痛、しびれ・言語障害がある場合はすぐ受診してください。
・軽いチカチカで休むと改善する場合は眼科か産科の受診を予定して相談してください。
妊娠中は原因が重なることがあるため、気になる症状は早めに相談することをおすすめします。
まとめ:妊娠中の「目がチカチカ」は重大なサイン
要点
妊娠中の「目がチカチカする」「視界が急に変わる」は、体の普通の変化とは別に注意が必要な症状です。特にチカチカや閃光、視野の欠け、急な視力低下は妊娠高血圧症候群やその前兆を示すことがあります。
受診の目安
次のような場合はすぐに主治医や産院に連絡してください。
- 突然のチカチカや視力低下が起こったとき
- 強い頭痛や吐き気、右上腹部の痛みを伴うとき
- 血圧が高い、手足のむくみや尿の異常があるとき
まず自分でできること
- 座って深呼吸し、安静にする
- 血圧計があれば測定する
- 症状の始まった時間と内容をメモしておく
医療での対応(簡単に)
医師は血圧や尿検査を行い、必要なら血液検査や眼の検査をします。症状が重ければ入院や薬の投与、場合によっては早めの分娩が検討されます。
最後に
全てのチカチカが重症を意味するわけではありません。ただし妊娠中はリスクが高まるため、少しでも異変を感じたら早めに相談してください。迅速な対応が母子の安全につながります。