妊娠高血圧症候群とは?定義と分類

妊娠高血圧症候群(HDP)の定義
妊娠高血圧症候群(HDP)は、妊娠20週以降に血圧が140/90mmHg以上となる状態を指します。
初めて妊娠中に高血圧が認められる場合に該当し、妊娠前からの高血圧とは区別されます。
HDPは母体と胎児の健康に影響を与える可能性があるため、早期発見と適切な管理が重要です。
妊娠高血圧症候群は、発症時期によって「早期発症型」と「後期発症型」に分けられることがあります。
早期発症型は妊娠20〜34週での発症を指し、よりリスクが高いとされています。
後期発症型は妊娠34週以降に現れることが多く、比較的軽症で経過することが多いです。
病型分類と重症度
HDPは症状や検査結果に応じていくつかの病型に分類されます。
- 妊娠高血圧:血圧上昇のみが認められ、尿蛋白や臓器障害がない状態です。比較的軽症で管理が容易な場合があります。
- 妊娠高血圧腎症(妊娠腎症):血圧上昇に加え、尿蛋白の出現が認められる場合です。腎機能への影響があるため、より注意深い管理が必要です。
- 子癇(せん妊娠):妊娠高血圧腎症が進行して発作(痙攣)を起こした状態で、母体・胎児ともに生命に関わる可能性がある重症例です。
この分類により、妊娠高血圧症候群の重症度や管理方法が決定されます。
医療現場では定期的な血圧測定や尿検査を行い、病型に応じて治療方針が調整されます。
原因と発症メカニズム
胎盤血管異常と血圧上昇
妊娠高血圧症候群の発症には、胎盤の血管形成異常が大きく関わっています。
胎盤が十分に血液を供給できないと、母体の血圧が上昇して胎児への酸素や栄養の供給が不十分になることがあります。
この血管異常は特に早期発症型の妊娠高血圧症候群で顕著です。
内皮障害・サイトカインの関与
血管内皮の機能障害もHDPの発症に関係しています。内皮障害により血管が収縮しやすくなることで血圧が上がります。
また、炎症性サイトカインの増加が血管や腎臓に負担をかけ、症状の悪化につながることがあります。
発症リスク因子
妊娠高血圧症候群はすべての妊婦に発症するわけではなく、いくつかのリスク因子があります。
- 高齢妊娠:35歳以上の妊婦で発症リスクが高くなる傾向があります。
- 初産:初めての妊娠で発症する確率が高いことが知られています。
- 肥満や過体重:体重が多いと血圧上昇のリスクが増加します。
- 多胎妊娠:双子以上の妊娠では胎盤への負荷が大きく、HDPの発症リスクが高まります。
これらの要因を把握することで、妊娠高血圧症候群の早期発見や予防に役立てることができます。
診断基準と検査方法

血圧測定のポイント
妊娠高血圧症候群の診断には、正確な血圧測定が欠かせません。
血圧は1回だけで判断せず、少なくとも2回測定して平均値を用いることが推奨されます。
また、安静状態で測定することが重要です。
自宅での血圧測定も診断や管理に有用で、日常生活での血圧変動を把握できます。
尿検査・血液検査の活用
診断の補助として尿検査での蛋白の有無を確認します。
尿蛋白が出ている場合は、妊娠高血圧腎症の可能性があり、腎臓への影響を評価するための血液検査(クレアチニン、血小板、肝機能など)も行われます。
国内外ガイドラインによる診断基準の違い
妊娠高血圧症候群の診断基準は国やガイドラインによって若干異なります。
日本の診療指針における定義
日本では妊娠20週以降に収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上が診断基準とされています。
尿蛋白の有無に応じて軽症・重症の判定が行われます。
米国・英国のガイドライン比較
海外のガイドラインでも血圧140/90mmHgを基準とする点は共通していますが、蛋白尿の有無や発症時期により分類が若干異なります。
これにより治療方針や入院判断が異なる場合があります。
症状と合併症リスク
典型的な症状
妊娠高血圧症候群では、血圧上昇に伴って以下の症状が現れることがあります。
- 浮腫(むくみ):特に手足や顔に現れやすい
- 頭痛:血圧上昇に伴う緊張性の頭痛
- 視覚異常:光がチカチカ見える、視界がぼやけるなど
症状の程度は個人差があり、軽症では自覚症状がほとんどない場合もあります。
母体合併症
進行した妊娠高血圧症候群では、以下の母体リスクが高まります。
- HELLP症候群:溶血・肝機能障害・血小板減少を伴う重篤な合併症
- 子癇:痙攣発作を起こす重症例
- 胎盤早期剥離:胎盤が早期に剥がれ、母体・胎児ともに危険な状態になる
胎児合併症
胎児への影響も無視できません。
- 胎児発育遅延:胎盤血流不足により成長が遅れる
- 早産リスク:母体・胎児の安全を優先して分娩が早まる場合があります
これらの症状や合併症リスクを理解することで、妊婦本人や医療従事者が早期対応できるようになります。
管理と治療

非薬物療法
妊娠高血圧症候群の軽症例では、まず生活指導や安静が基本となります。具体的には以下の方法が推奨されます。
- 安静:過度な運動や立ち仕事を避け、休息を十分にとる
- 食事管理:塩分を控えめにし、バランスの良い食事を心がける
- 自宅血圧測定:日常生活での血圧変動を把握し、医師と共有する
非薬物療法によって血圧の安定が確認できる場合、薬物治療を開始せずに経過観察が可能です。
薬物療法
血圧が160/110mmHg以上になるなど、重症化の兆候がある場合は降圧薬による治療が必要です。妊娠中に使用可能な薬剤を選択し、母体と胎児への影響を最小限に抑えることが重要です。
- 開始基準:持続的に高血圧が認められる場合
- 使用薬剤:ラベタロールやニフェジピンなど、妊娠中でも比較的安全とされる薬剤
- 注意点:自己判断で中止せず、医師の指示に従う
高リスク妊婦への対応
重症例やリスクの高い妊婦では、入院管理や早期介入が検討されます。
- 低用量アスピリンの投与:早期発症型HDPのリスク軽減に有効
- 入院管理の判断基準:血圧コントロール困難、尿蛋白増加、胎児発育遅延など
H4:重症例の入院フロー
入院時は血圧・尿蛋白・血液検査の定期モニタリングが行われ、必要に応じて分娩準備が進められます。
H4:周産期管理アルゴリズム(簡易図解)
重症例では母体・胎児の状態に応じて、分娩時期や管理方針がアルゴリズムに沿って判断されます。
出産後のフォローと予後
産後血圧の管理
妊娠高血圧症候群の母体は、分娩後も血圧の管理が必要です。
産後数日〜数週間は血圧が不安定になりやすく、安静や定期的な血圧測定が推奨されます。
特に重症例では、退院後も医療機関でのフォローが重要です。
再発リスクと心血管リスク
HDPを経験した妊婦は、将来的に高血圧や心血管疾患を発症するリスクが高くなることが報告されています。
次回妊娠時の再発リスクもあるため、早期に医療相談を行うことが推奨されます。
長期フォローの重要性
産後のフォローは母体だけでなく、将来の妊娠や生活習慣病予防にもつながります。
定期的な健康診断や生活習慣改善に取り組むことで、長期的な健康維持が可能です。
予防と注意点

リスク評価と早期介入
妊娠高血圧症候群の予防には、妊娠初期からのリスク評価が重要です。
年齢、初産かどうか、体格、既往歴などをもとにリスクを把握し、早期から適切な管理を行うことで発症や重症化を防ぐ効果があります。
生活習慣の改善
血圧の安定には生活習慣の改善も有効です。具体的には以下の点に注意します。
- 塩分を控えたバランスの良い食事
- 適度な運動(医師の許可がある範囲で)
- 十分な睡眠とストレス管理
生活習慣の改善は、妊娠中だけでなく将来の心血管疾患リスク低減にもつながります。
定期的な産婦人科受診の重要性
定期的な産婦人科での受診により、血圧や尿蛋白のチェックを行い、早期発見・早期対応が可能です。
症状がなくても定期的にモニタリングすることで、重症化を防ぐことができます。