目次
はじめに
妊娠後期になると、体にさまざまな変化が起きます。その一つに、血圧が下がって気持ち悪さやめまいを感じることがあります。本記事は、妊娠後期の低血圧について、原因や症状、胎児への影響、日常でできるセルフケア、受診の目安などをやさしく丁寧にまとめたガイドです。
この記事の目的
妊婦さんとそのご家族が、低血圧で不安になったときに落ち着いて対応できるように情報を提供します。難しい専門用語はできるだけ使わず、具体例を交えて説明します。
対象読者
妊娠後期(妊娠28週以降)に入った方、またはそのご家族。既にめまいや吐き気を感じている方も、これから備えたい方もご覧ください。
本記事で分かること
- 低血圧が起きる仕組みの簡単な説明
- よく現れる症状と見分け方
- 日常でできる安全な対処法
- 受診すべきサインと医療機関での相談ポイント
なお、本記事は一般的な情報提供を目的としています。症状が強い場合や不安がある場合は、早めに医師や助産師に相談してください。
妊娠後期に低血圧が起こる理由
血液量の増加と血管の拡張
妊娠中は血液量が約1.5倍に増えます。血液量は増えても、妊娠ホルモンの影響で血管がゆるみやすく、血圧は下がりやすくなります。例として、同じ量の血液が広い管を流れるイメージです。
子宮による下半身の血流障害
妊娠後期になると子宮が大きくなり、仰向けでいると下大静脈や骨盤内の血管を圧迫します。そのため心臓に戻る血液が減り、上半身や脳への血流が一時的に不足してめまいや立ちくらみが起きます。立ち上がる際のふらつきも起こりやすいです。
ホルモンバランスと自律神経の影響
プロゲステロンなどのホルモンが血管を拡張させます。自律神経の調整も変わるため、血圧の調整がやや鈍くなります。
脱水や栄養不足の影響
つわりや食欲低下、汗をかきやすいといった理由で脱水や塩分・鉄分の不足が起きると、低血圧が悪化します。水分とバランスのよい食事が大切です。
(この章は妊娠後期に低血圧が起こる主な理由を分かりやすく説明しています)
低血圧による主な症状
概要
妊娠後期に起こる低血圧は、血流や酸素の供給が一時的に不足することでさまざまな不快な症状を生じます。ここでは代表的な症状をわかりやすく説明します。
主な症状と簡単な説明
- めまい・立ちくらみ
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立ち上がったときや急に向きを変えたときに感じることが多いです。目の前が暗くなる、ふらつくといった感覚が特徴です。血圧が下がり脳への血流が一時的に減るのが原因です。
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気持ち悪さ・吐き気
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胃のむかつきや吐き気として現れます。消化器への血流や全身の循環の変化が関係します。
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倦怠感・だるさ
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いつもより疲れやすく、体を動かす気力が出ないことがあります。酸素や栄養が行き渡りにくくなるためです。
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動悸・息切れ
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心臓が速く打つ、息が切れる感じがあるときは、体が血圧低下を補おうとしているサインです。
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頭痛
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鈍い痛みや重い感じの頭痛が出ることがあります。緊張型の痛みと似た症状が多いです。
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顔色不良・冷や汗
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顔色が青白くなる、冷や汗が出る場合は血流の急激な低下が考えられます。
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失神・意識消失
- 血圧が極端に下がると、一時的に意識を失うことがあります。短時間でも倒れるような症状があれば注意が必要です。
症状が出る仕組み(簡単に)
血圧が下がると心臓や脳に届く血液が減り、酸素や栄養が不足します。妊娠後期は子宮や胎盤への血流が増えるため、母体の循環負担が変化しやすく、症状が出やすくなります。
気をつけたいこと
軽いめまいやだるさはよくある症状ですが、失神や呼吸困難、長引く激しい頭痛や胸の痛みがあるときはすぐに受診してください。次章で具体的な対処法や受診の目安を詳しく解説します。
妊娠後期特有の注意すべき症状とリスク
主な症状と起こる状況
妊娠後期に仰向けで寝ると、お腹の大きくなった子宮が下大静脈を押して血流が急に減り、血圧が下がります。その結果、めまい、吐き気、冷や汗、顔色が青ざめる、失神といった症状が出ます。例えば夜中に仰向けで寝返りをしたときや、長時間横になると起きやすいです。
胎児へのリスク
母体の血圧が低い状態が続くと胎盤へ届く酸素や栄養が不足し、胎児の発育不良や早産、低体重で生まれるリスクが高まります。短時間でも頻繁に低血圧が起きると影響が出やすい点に注意が必要です。
母体へのリスク
めまいや立ちくらみによる転倒で骨折や腹部打撲を招くと、お腹の赤ちゃんにも危険が及びます。また失神で意識を失うと窒息や誤嚥の危険もあります。
気をつける場面と具体例
・仰向けでの長時間の睡眠や休憩は避け、左向きで休むと血流が安定します。
・起き上がるときはゆっくり動く。ベッドから立ち上がる前に数分座ると安心です。
・移動中や混雑した場所で立ち続けるときはこまめに座るか足を動かすとめまいを防げます。
すぐに受診が必要なサイン
意識を失う、激しいめまいが繰り返す、冷や汗や吐き気が強く日常生活に支障が出る場合はすぐ受診してください。
具体的なセルフケア・対処法
動作はゆっくり
急に立ち上がったり起き上がったりするとめまいが起きやすいです。起きるときはまずベッドの端で数分座り、足を床につけてからゆっくり立ち上がってください。立ち上がる際に深呼吸やつま先立ちを数回するのも有効です。
水分と塩分のこまめな補給
喉が渇く前に少しずつ水分をとりましょう。目安は医師の指示に従いますが、普段はこまめに200ml程度を何回かに分けて飲むと安心です。塩分は少量の梅干しや塩分入りのスープなどで補うと血圧が落ちすぎるのを防げます。
バランスの良い食事
鉄分(赤身肉、ほうれん草)、葉酸(緑黄色野菜、豆類)、たんぱく質(魚、卵、豆製品)を意識して摂りましょう。小分けにして食べると胃にも負担が少なく、血圧の安定につながります。
休息と体位の工夫
疲れたら無理をせず休んでください。横になるときは左側臥位(左を下にして横になる)にすると血流が良くなります。足を少し高くするクッションも役立ちます。
体温管理と環境
部屋の換気や薄手の重ね着で体温を調整しましょう。暑さや汗で血圧が下がることがあるため、冷房の設定や衣服を工夫してください。
定期的な血圧測定と記録
自宅で血圧を測り、時間帯と症状をメモしておくと医師に伝えやすくなります。測定は静かな状態で座って行ってください。
緊急時の対処
意識が遠のく、強い胸痛、ひどい頭痛、出血がある場合はすぐに受診または救急を呼んでください。気になる症状は早めに相談しましょう。
受診の目安と注意点
いつ受診するか
妊娠後期で次のような症状があるときは、速やかに産婦人科を受診してください。気持ち悪さやめまいが強く日常生活に支障がある、失神や意識消失、激しい動悸や息切れ、急なむくみ、強い腹痛や出血、胎動の著しい減少、長期間つづく強いだるさ・食欲不振・体重減少。
緊急度の判断と対応
失神・大量出血・激しい腹痛・呼吸困難がある場合は救急車を要請してください。軽度のめまいや吐き気でも症状が続くなら、まず電話で受診可否を確認すると安心です。
受診時に医師に伝えること
・症状の開始時刻と経過・頻度
・体温や血圧の自己測定値があれば数値
・出血の量や色、痛みの部位・強さ
・胎動の回数の変化・服薬や既往症
持ち物と準備
母子手帳、保険証、現在服用中の薬リスト、最近の血圧や体重の記録、連絡先。来院前に食事や水分の有無を確認しておくと診断がスムーズです。
受診時の注意点
通院中にめまいを感じたら立ち止まり座るか、左側臥位で休んでください。運転中に異常を感じたら無理に運転を続けないでください。可能なら付き添いを頼みましょう。
医療機関で行われる主な検査
血圧測定、尿検査、血液検査、胎児心拍モニター(NST)や超音波検査。これらで母体と胎児の状態を総合的に判断します。
妊娠後期の低血圧と他の不調の関係
妊娠後期に感じるめまいや吐き気は、低血圧だけが原因とは限りません。貧血や低血糖、脱水などが重なり、症状が強く出ることがあります。ここでは、見分け方と注意点を分かりやすく説明します。
症状が重なるよくある例
- 貧血:顔色が悪く、動悸や疲れやすさがある。鉄分不足が原因のことが多いです。
- 低血糖:食事の間隔が長いと起こりやすく、冷や汗や手の震え、急な気分不良が出ます。
- 脱水:水分不足で立ちくらみや倦怠感が出る。暑い日や嘔吐が続くと起こりやすいです。
見分け方のポイント
- 出る時間:空腹時なら低血糖、動いた直後なら起立性低血圧の可能性が高いです。
- 目に見える変化:皮膚の色や汗、呼吸の状態で判断します。貧血は蒼白、脱水は口の渇きが目立ちます。
- 測れるものは測る:家庭用血圧計や血糖測定(医師の指示がある場合)で確認すると手がかりになります。
隠れていると怖い病気
- 心不全:息切れや手足のむくみが強ければ注意が必要です。妊娠でも起こり得ます。
- 妊娠高血圧症候群:高血圧が主ですが、急なむくみや激しい頭痛、視野の異常があれば早めに受診してください。
これらは自己判断せず、医師に相談することが大切です。
日常でできる注意点
- ゆっくり立ち上がる、こまめに水分と軽い間食をとる。
- 家族に症状を伝え、ひどいときは安静にしてすぐ受診する準備をする。
受診時に伝えること
- 症状が出た時刻や状況(食事・活動・持続時間)、既往歴や服薬、測った値を伝えると診断がスムーズです。
妊娠後期によくあるQ&A
Q1: 低血圧だけで赤ちゃんに影響しますか?
一般的には軽い低血圧だけで胎児に大きな影響は少ないです。ただし、著しく血圧が下がる、あるいは長時間続く場合は子宮への血流が不足しやすく、発育不良や早産のリスクが高まることがあります。胎動や健診での赤ちゃんの成長を定期的に確認してください。
Q2: 立ちくらみが起きたときはどうすればいいですか?
まず安全な場所に座るか横になります。左側臥位(左を下にして横になる)にすると子宮への血流が改善しやすいです。深呼吸してゆっくり水分を摂ることも効果的です。
Q3: 家での血圧測定はどれくらい必要ですか?
症状がある日は測る習慣をつけましょう。普段は週に1回程度、症状があるときは朝晩や具合が悪いときに測ると、変化に気づきやすくなります。
Q4: 薬は自分で飲んでもいいですか?
医師の指示なしに血圧の薬や市販薬を使わないでください。妊娠中に使える薬・使えない薬があるため、つらい場合は必ず医師に相談してください。
Q5: すぐ受診した方がいいサインは?
意識を失いかける、強いめまいで転倒した、胸の痛みや激しい息切れ、胎動の急激な減少があるときはすぐ受診してください。これらは早めの処置が必要な場合があります。
Q6: 日常でできる予防法は?
こまめに水分をとる、塩分を適度に摂る(医師の指示に従う)、急に立ち上がらない、小分けの食事、弾性ストッキングの着用などが役立ちます。症状が続く場合は受診して原因を調べましょう。
まとめ
ポイント
妊娠後期の低血圧は比較的よくある変化で、多くは一時的です。めまい、気持ち悪さ、立ちくらみなどが起こりますが、日常生活で対処できる場合が多いです。
セルフケアの振り返り
- ゆっくり立ち上がる、こまめに水分と塩分を補給する、少量ずつ回数を分けて食べる。
- 横向き(特に左側)で休む、弾性ストッキングを使う、長時間の立ち仕事を避ける。
これらで症状が軽くなることが多いです。
受診の目安
強いめまいで転倒した、意識が遠のく、胸の痛みや激しい頭痛、胎動が急に減った、出血や高熱がある場合はすぐ受診してください。症状が長引く場合も医師に相談しましょう。
今後の過ごし方
無理をせず、休息を優先してください。家族や周囲に症状を伝え、サポートを受けると安心です。定期健診で気になる点を伝え、必要なら医師の指示に従ってください。妊娠後期は体の変化が大きい時期ですが、適切なケアで乗り切れます。安心できないときは早めに相談してください。