高血圧予防と血圧管理

妊娠高血圧症とは何か母子の健康管理法を詳しく解説

はじめに

本書の目的

妊娠高血圧症について、基本から実際の対応までやさしく丁寧に解説します。妊娠中に血圧が高くなることは珍しくなく、早めに気づき管理することで母子ともに安全が保てます。

この章で伝えたいこと

  • 妊娠高血圧症がどんな病気かを簡単に理解できます。
  • この記事全体の流れと、各章で何を学べるかがわかります。

誰に向けた記事か

妊娠中の方、そのご家族、妊娠を考えている方、初期対応を知りたい方に向けています。医療従事者向けの専門的な論文ではなく、日常生活で役立つ情報を中心にまとめます。

お読みいただく際の注意

個々の症状や状況は異なります。ここでの情報は一般的な説明です。気になる症状があるときは、必ずかかりつけの産科医や助産師に相談してください。

妊娠高血圧症とは

定義

妊娠高血圧症(旧名:妊娠中毒症)は、妊娠中に血圧が異常に上がる病気の総称です。一般に妊娠20週以降に初めて高血圧を認め、産後12週までに正常に戻るのが特徴です。

発症の目安

医療では、目安として収縮期(上の血圧)140mmHg以上、または拡張期(下の血圧)90mmHg以上を高血圧と判断します。ただし個人差があるため、かかりつけの医師の判断が大切です。

種類の違い(わかりやすく)

  • 妊娠高血圧(たんぱく尿がない場合)
  • 子癇前症(たんぱく尿や肝・腎などに影響が出る場合)
    妊娠前から高血圧がある場合は「慢性高血圧」と区別します。

どれくらい多いか

日本ではおよそ20人に1人が発症すると言われ、決して珍しくはありません。

なぜ重要か

母体や胎児に影響を及ぼすことがあるため、定期的な妊婦健診での血圧チェックが重要です。自宅で血圧を測り記録しておくと、早めに医師に相談できます。

主な症状と重症度

症状の特徴

妊娠高血圧症は多くの場合、自覚症状がほとんどありません。妊婦健診で血圧や尿検査から見つかることがよくあります。日常で自分で気づくことは少ないため、定期検診が大切です。

進行した際にあらわれる主な症状

  • 顔や手、足のひどいむくみ(指輪が入らない、靴がきついなど)
  • 強い頭痛(普段と違う、鎮痛薬で治らない)
  • 視界の異常(光がチカチカする、視野が欠ける、かすむ、二重に見える等)
  • みぞおちや右上腹部の痛み(肝臓周囲の痛みとして感じる)
  • 吐き気・嘔吐や食欲不振
  • 1週間で1kg以上の急な体重増加(むくみによる)

これらが現れたら状態が進んでいる可能性があります。特に頭痛や視覚症状、腹部痛は注意が必要です。

重症度の判定基準(目安)

  • 血圧:収縮期血圧(上)が160mmHg以上、拡張期血圧(下)が110mmHg以上は重症と判断されます。
  • 尿タンパクの有無:タンパクが多ければ重症化の指標になります。
  • 発症時期:妊娠後期に急に高くなった場合は注意度が増します。

医師はこれらを総合して軽症・重症を判断します。

受診の目安(いつ医療機関へ行くか)

上の血圧やリストにある症状が出たら速やかに相談してください。特に強い頭痛、視界異常、激しい腹痛、嘔吐、急激な体重増加はただちに受診または救急を検討してください。定期的に血圧と尿検査を受けることが大切です。

原因と発症メカニズム

胎盤の役割と形成不良

胎盤は胎児に酸素と栄養を渡す大切な器官です。妊娠初期に胎盤が十分にできないと、胎児への血流が落ちます。例えると、水道管が細くなると水が届きにくくなるのと同じで、胎児に必要な血液量が足りなくなります。母体はその不足を補おうとして血流を増やし、結果として血圧が上がりやすくなります。

胎盤虚血説(胎盤の血流不足)

胎盤の血管がうまく拡張しないと、胎盤は低酸素状態になります。低酸素になると胎盤から血管のはたらきを乱す物質が出ます。これが母体の血管を収縮させ、血圧上昇や臓器の血流障害を招きます。この考え方を「胎盤虚血説」と呼び、最も有力なメカニズムです。

母体で起きる変化

胎盤からの物質は母体の血管の内側(血管内皮)に悪影響を与えます。内皮がうまく働かなくなると血管が硬くなり、血圧が高く保たれます。腎臓のろ過機能も乱れるため、尿にたんぱくが出たり、むくみが起きたりします。道路が狭くなって渋滞が起きるイメージです。

免疫・遺伝・環境の影響

免疫の応答の違いや遺伝的素因、妊娠回数や年齢、持病なども関係します。これらが重なると胎盤の形成不良を招きやすく、発症のリスクが高まります。

リスク因子

妊娠高血圧症は誰にでも起こり得ますが、ある条件がそろうと起こりやすくなります。ここでは代表的なリスク因子を、具体例を交えてわかりやすく説明します。

主なリスク因子

  • 既往の持病
  • 妊娠前から高血圧、糖尿病、腎臓病などがあるとリスクが高まります。例えば高血圧の治療を受けている方は注意が必要です。
  • 年齢
  • 35歳以上の高齢妊娠でリスクが上がります。特に40歳以上はさらに注意が必要です。反対に15歳以下の若年妊娠もリスク増です。
  • 初産婦
  • 初めての妊娠は発症しやすい傾向があります。2回目以降に比べて注意が必要です。
  • 肥満(BMI)
  • BMIが25以上はリスクが上がります。例:身長160cmで体重64kgはBMIが約25で注意目安になります。
  • 家族歴
  • 母親や姉妹に妊娠高血圧症の経験があると発症しやすくなります。
  • 多胎妊娠
  • 双子や三つ子などの多胎では胎盤の負担が大きく、リスクが増します。
  • 生殖補助医療
  • 体外受精などは妊娠高血圧症の頻度がやや高くなると報告されています。胎盤の形成に関連する場合があります。

その他の注意点

  • 喫煙や過度な体重増加、慢性的なストレスなど生活習慣も影響します。対策は妊娠前からの健康管理が有効です。

リスクが当てはまる場合は、妊娠前や早期の受診で医師と相談してください。適切なフォローで合併症を減らすことができます。

合併症と母児への影響

妊娠高血圧症が進行すると、母体と胎児の両方に深刻な影響を及ぼします。早めに発見・管理することが大切です。

母体への主な合併症

  • 脳出血や脳症:強い頭痛や意識障害が現れることがあります。
  • 肝機能障害・HELLP症候群:肝臓の障害と血小板減少を伴い、出血しやすくなります。腹痛や吐き気が目立ちます。
  • 腎機能障害:尿の量が減ったり、タンパク尿が増えたりします。
  • 子癇(けいれん発作):けいれんを起こし、命に関わることがあります。

胎児・新生児への影響

  • 胎児発育不全(FGR):胎盤の血流不足で成長が遅れます。
  • 常位胎盤早期剥離:胎盤が早く剥がれ、出血や胎児苦悩を引き起こします。
  • 早産・低出生体重:母体の状態を改善するために早く出産することがあり、未熟児リスクが高まります。

発症時の対応と注意点

重症化すると入院・厳重な管理が必要です。血圧の管理やけいれん予防の薬、胎児の状態の頻回な確認を行い、場合によっては早めに出産する判断がされます。普段から血圧と体調の変化に注意し、異常を感じたら速やかに医療機関を受診してください。

診断と治療

診断の基本

妊婦健診で血圧と尿検査を繰り返し行い、診断します。妊娠20週以降に収縮期(上)が140mmHg以上、拡張期(下)が90mmHg以上が目安です。値が高ければ別日に再測定し、家庭での血圧測定も参考にします。尿の検査では蛋白(たんぱく)の有無を調べ、必要なら尿中蛋白/クレアチニン比や血液検査で肝機能・腎機能・血小板を評価します。胎児の状態は超音波や心拍の検査で確認します。

軽症の管理

症状が軽く母体・胎児に異常がなければ、外来で経過観察します。安静や休息を勧め、家庭での血圧測定を指導します。食事では極端な塩分制限は避けつつ過剰摂取を控え、体重管理を行います。定期的な受診頻度を増やして変化を早めにとらえます。

重症や合併症が疑われる場合

血圧が高度に上昇する、蛋白が多い、肝機能や腎機能に異常が出る、胎児の発育に問題がある場合は入院して集中的に管理します。入院中は血圧・尿・血液・胎児心拍を注意深く観察します。

薬物治療と妊娠管理

降圧薬は妊娠でも使用できるものを選びます。代表的にはラベタロール、ニフェジピン、メチルドパなどです。てんかん発作の予防や重症化防止にはマグネシウム硫酸を使うことがあります。治療は母体と胎児の状態を総合して判断します。

分娩の判断

母体や胎児に危険が及ぶ場合、早めの分娩(誘発分娩や帝王切開)を検討します。妊週数や胎児の成熟度を見ながら、産科チームと新生児科が連携して方針を決めます。

出産後のフォロー

産後も血圧が高い場合があり、退院後の受診を必ず行います。将来の心血管疾患リスクが上がるため、生活習慣の改善や定期検診を勧めます。

予防策

妊娠高血圧症を完全に防ぐ方法はまだ確立されていませんが、リスクを下げるために妊娠前から妊娠中まで心がけられる対策があります。ここでは分かりやすく実践的なポイントをまとめます。

日常生活でできること

  • 塩分控えめにする:加工食品やインスタント食品に塩分が多いので表示を確認し、調味は薄めにするとよいです。簡単な目安は味を濃くしすぎないことです。
  • バランスの良い食事:野菜や果物、良質なたんぱく質を意識して摂ります。過度なダイエットは避けてください。
  • 適度な運動:医師の許可があれば、ウォーキングや軽い体操を週に数回行うと血圧の安定につながります。
  • 休息と睡眠:疲れをためないように短い休憩や十分な睡眠を心がけます。
  • 禁煙・節酒:喫煙はさまざまなリスクを高めるため禁煙が望ましく、飲酒は控えます。

体重管理

  • 妊娠中の体重増加は個人差があります。医師や助産師と相談し、過度に増やさないよう食事と運動で調整します。

定期検診と自己管理

  • 定期的に妊婦健診を受け、血圧測定や尿検査を欠かさないでください。家庭で血圧を測ると早期発見に役立ちます。
  • むくみ、激しい頭痛、視界の変化などの症状が出たらすぐに連絡してください。

基礎疾患のコントロールと医師との相談

  • 既往の高血圧、糖尿病、腎疾患などがある場合は妊娠前から治療計画を立て、薬の調整などは医師の指示に従ってください。
  • ハイリスクの場合、医師が低用量アスピリンなどの予防的措置を勧めることがあります。自己判断で薬を中止・開始しないでください。

以上を日常に取り入れることでリスクを減らし、安心して妊娠期間を過ごせる可能性が高まります。気になることは早めに専門家に相談しましょう。

医療費助成や公的サポート

概要

妊娠高血圧症は、場合によって公的な医療費助成の対象になります。自治体によって対象範囲や支給方法が異なり、入院を要するケースに対して医療費の一部を助成する例が多いです。東京都など一部自治体では、入院期間や所得に応じて助成が受けられます。

対象となる主な制度

  • 自治体の妊産婦医療費助成:入院治療を対象に医療費の一部を補助する制度です。自治体ごとに名称や内容が異なります。
  • 健康保険の高額療養費制度:1か月の医療費が一定額を超えた場合、自己負担を軽減します。妊娠に特化したものではありませんが、入院時に利用できます。
  • 出産育児一時金:出産にかかる費用に対する公的支給で、出産時の自己負担を軽くします。
  • 傷病手当金(加入している健康保険による):勤務中の妊婦が入院や休業で収入が減ったときに給付されることがあります。
  • 生活保護(医療扶助):低所得で医療費の支払いが困難な場合に医療費が公費で賄われます。

支給の基準・要件(例)

  • 所得制限:世帯の年収で判定する自治体が多いです。
  • 入院期間:一定日数以上の入院が対象になることがあります。
  • 診断名:医師による妊娠高血圧症の診断書が必要です。

申請手続きの流れ(一般的な例)

  1. 主治医に診断書や入院証明書を発行してもらう。
  2. 居住する市区町村の窓口(保健福祉課や子ども家庭課など)に相談する。
  3. 申請書と必要書類(診断書、領収書、所得証明など)を提出する。
  4. 審査の後、助成金が支給されるか、医療機関へ直接支払われる方式が確認されます。

実際の負担を減らすためのポイント

  • 申請は退院後でなく、入院中に窓口に相談すると手続きが早い場合があります。
  • 領収書は必ず保存し、複数回の入院がある場合は期間ごとに整理しておくと便利です。
  • 迷ったときは医療機関の医事課や自治体の窓口に相談してください。

注意点と相談先

  • 制度の内容は自治体で大きく異なります。必ず居住地の情報を確認してください。
  • 申請に時間がかかることがあるため、入院や退院の手配と合わせて早めに相談しましょう。
  • 相談先:市区町村の窓口、保健所、勤務先の健康保険組合、病院の医事課など。

まとめ・注意点

まとめ

妊娠高血圧症は早く見つけて適切に管理すれば、母子の安全を保ちやすい病気です。妊婦健診での血圧測定や尿検査を欠かさず受けることが最も大切です。日々の体調変化を自分でも記録し、気になる症状があれば速やかに受診してください。

日常生活での注意点

  • 血圧を定期的に測る(家庭で記録すると医師と共有しやすいです)。
  • むくみや頭痛、目のかすみ、胎動の減少など異変を見逃さない。
  • 塩分を極端に減らさず、バランスの取れた食事と十分な休息を心がける。
  • 喫煙や飲酒はやめる。家族の協力を得て無理のない生活にする。

受診・分娩・産後のポイント

  • 症状が急に強くなったら、ためらわず救急外来へ。重い頭痛や視力障害、上腹部の痛みは特に要注意です。
  • 治療薬は医師の指示に従い、自己判断で中止しないでください。
  • 出産後も血圧の変化が起きることがあります。産後の受診を必ず受けてください。

最後に

妊娠高血圧症は不安を感じやすい状態です。気になることは早めに医療機関や保健師に相談しましょう。周囲のサポートを得て、安全な妊娠・出産を目指してください。

-高血圧予防と血圧管理
-